ハンス・ベルメール:日本への紹介と影響

− 球体関節人形を中心に −


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[覚書2]

澁澤的ベルメール論のベルメール的迷宮

 澁澤龍彦によると、ハンス・ベルメールは、『不思議の国のアリス』の作者と同類の「少女崇拝者」であり、同時に、「切り裂きジャック」の如き色情的殺人鬼の「親戚」である。そして、彼の制作した少女人形とは、「彼の理想の女であり、彼の自己愛の投影そのもの」であり、同時にそれは、彼が自らの「破壊の衝動をぶつける」対象として発明した物なのである。 さらに、...

―― 澁澤龍彦のベルメール論は、出口の無い迷宮の様相を呈している。 我々は、その中に何を見出すことが出来るだろうか。


[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [資料] [註]

1.はじめに

 澁澤龍彦は、日本において最も影響力のあったベルメール紹介者であった。

 澁澤は、戦前はもちろん、戦後に限っても、最初の紹介者ではない。しかし、彼のベルメール論が、論点の多様さ、あるいは訴求力において飛び抜けた存在であったことは疑いを得ない。ベルメールに関心を持つ多くの読者が澁澤のエッセイからベルメールを知ったであろうし、澁澤のベルメール論からインスピレーションを得た作家も少なくないだろう。

 また、澁澤の側から見てもベルメールは特別な存在であった。彼の主要なベルメール・エッセイは、1960年代前半から70年代前半までの約10年間に書かれたが、その数の多さは、澁澤好みの芸術家の中でも異例であると言える。

 では、澁澤はベルメールやベルメールの作品をどのように捉えていたのだろうか?

 驚くことに、彼の一連のエッセイを「一つのベルメール論」と見なしてその論理の筋を追っていくと、まるで迷宮のように錯綜した様相が見えてくる。澁澤のエッセイ群から単一のベルメール像を抽出することは、予想を越える困難な作業なのである。

 比喩的な表現をするならば、澁澤のベルメール論はいくつかの論点からモザイクのように構成されている、と言うことができる。このモザイクは、それを構成する一つ一つの貴石は一見美しいが、その全体を一つの「絵」としてみようとすると、それぞれの石が乱反射を起こして明確な像を結ばないという奇妙なモザイクなのだ。

 だが、まさにそのような様態にこそ、日本人によるベルメール受容の在り方が端的に顕れているのではないだろうか? 澁澤龍彦のベルメール論を探ることによって、あるいは、当サイトの主題に関わる重要な手掛かりが得られるかもしれない。

2.澁澤的ベルメール論の論点


2003年4月30日公開
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